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大阪地方裁判所 平成3年(ワ)4642号 判決

原告(反訴被告)

門昭和

ほか一名

被告(反訴原告)

丸福運輸株式会社

主文

一  原告(反訴被告)らの請求をいずれも棄却する。

二  反訴被告(原告)らは、反訴原告(被告)に対し、各自金一〇四万五二一五円及びこれに対する平成二年四月七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  反訴原告(被告)のその余の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は、これを二〇分し、その一を被告(反訴原告)の負担とし、その余を原告(反訴被告)らの負担とする。

五  この判決は反訴原告(被告)勝訴部分に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  本訴

1  被告(反訴原告)は、原告(反訴被告)門昭和に対し、金七〇万五八〇八円及びこれに対する平成二年四月七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  被告(反訴原告)は、原告(反訴被告)昆田運送株式会社に対し、金一一六万〇四三八円及びこれに対する平成二年四月七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  反訴

反訴被告(原告)らは、反訴原告(被告)に対し、各自金一〇九万五二一五円及びこれに対する平成二年四月七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、高速道路上での普通貨物自動車と大型貨物自動車の衝突事故において普通貨物自動車(リース物件)のユーザー及び運転者からの大型貨物自動車運転者の使用者に対する損害賠償請求事件(本訴)と大型貨物自動車の所有者から普通貨物自動車の運転者及びその使用者に対する損害賠償請求事件(反訴)である。

一  争いのない事実(証拠及び弁論の全趣旨により明らかに認められる事実を含む。)

1  事故の発生

(1) 発生日時 平成二年四月七日午前六時三〇分前後

(2) 発生場所 大阪市鶴見区茨田大宮二丁目近畿自動車上り一三・五キロポスト付近路上(以下「本件現場」という。)

(3) 関係車両

〈1〉 訴外山本康裕(以下「訴外山本」という。)運転の被告(反訴原告)(以下「被告」という。)所有の大型貨物自動車(なにわ一一あ二七七〇、以下「被告車」という。)

〈2〉 原告(反訴被告)門昭和(以下「原告門」という。)運転の原告(反訴被告)昆田運送株式会社(以下「原告会社」という。)がユーザーとなつている普通貨物自動車(大阪四四く三八〇五、以下「原告車」という。)(甲一〇)

(4) 事故態様 本件現場で原告車の後部と被告車の前部が衝突したもの(検甲一ないし三検乙一ないし五)

2  被告が被告車を運転していた訴外山本の使用者であり、本件はその業務の執行に際しての事故である。

二  争点

1  本件事故の態様及びその過失責任、運行供用者責任、使用者責任(訴外山本及び原告門のいずれに過失があるか、双方に過失がある場合にはその割合)

(1) 原告ら

進路前方の渋滞のため徐々に減速をして時速約四〇キロメートルで原告車が走行していたところ、その後方を追走していた訴外山本運転の被告車が、前方車両の動静を注視しないで漫然と時速約八〇キロメートルで走行した過失により追突した。

(2) 被告

被告車が走行車線を走行中のところ、追越し車線を走行中の原告門運転の原告車が、突然左にハンドルを切つて走行車線に車線変更して被告車の直前に入り込み急停止した過失のため、訴外山本は急ブレーキを欠けたが及ばず、追突したものである。本件事故は不可抗力によつて発生したものであるから、被告は免責されるべきである。

2  原告ら及び被告の各損害額

第三争点に対する判断

一  争点1(本件事故態様、過失責任、運行供用者責任)について判断する。

1  前記争いのない事実に証拠(甲一、一二、検甲一ないし三、検乙一、二、証人山本康裕、同石谷一朗、原告門本人)及び弁論の全趣旨を総合すると、以下の事実がひとまず認められる。

(1) 本件現場付近は、制限速度時速八〇キロメートルの近畿自動車道上り線(北行)の直線道路で、大東鶴見出口のため、三車線から左端車線が分岐する形で二車線となる場所である。

(2) 被告車は、ポリプロピレンを積載した一八トンのフルトレーラーで一〇トン車の後方に八トンの箱車を牽引しているものであり、南から北に中央車線を走行していた。原告車は白い所謂箱バンの普通貨物自動車であつた。

(3) 本件事故後の原告車の主だつた損傷は右後方部の凹損、右側面中央部の凹損であり、被告車は前部バンパーの中央付近の凹損、左フロント部の凹損であつた。事故後原告車は前部を東に向けて停止したところ、石谷運転の普通貨物自動車(以下「石谷車」という。)が追突した。

以上の事実が認められる。

2  ところで、原告門は、本件事故前後の状況について、「本件現場の大分手前から中央車線を走行した、大東鶴見出口手前で車線変更はしていない、時速八〇キロメートル位で走行していたが、前方の車の流れが徐々に落ちてきたので、車間を保つために、本件現場手前三〇〇メートル位の地点からブレーキは踏まないで、アクセルから足を離して減速し、時速五〇キロメートルになつた、後方車両も絶えず確認していたが、すぐ後方は被告車であつた、追突後ブレーキを踏んだが、右に回転して大東鶴見出口の分岐点を過ぎてから走行車線と追越し車線の中央に停止した、そのため追越し車線の後続車である石谷一朗運転の普通貨物自動車が追突した、大東鶴見出口で降りる必要もなかつた」旨供述する(原告門本人、なお、甲六もほぼ同旨)。

一方、訴外山本は、「本件現場まで中央車線を時速八〇キロメートルで走行していたところ、大東鶴見出口の直前で右後方の追越し車線から中央車線に原告車が割り込んで来たが、さらに左側車線に突入する動きがあつたが、左側車線に走行車両があつたので、再び中央車線に来て急停止した、被告車は原告車が割り込んできた時点でブレーキを踏んでいたが、再度中央車線に入つてきたとき急ブレーキをかけたが、追突した」旨供述する(証人山本)。

3  そこで、両者の供述の信用性について検討する。

証人石谷は、「本件現場まで道路はがら空きで、スピードを五〇キロメートルに落とすような混み具合ではなかつた、石谷車は四トン車で座席は高く前方はよく確認できた、大東鶴見出口手前五〇〇メートルで前方の車両とともに中央車線から追越し車線に変更した、ともに車線変更をした前方の白い車が、中央車線前方の被告車を追い越して、大東鶴見出口のほんの手前で中央車線に戻つた、被告車の右後方に石谷車が接近したときに、被告車は減速し、石谷車も減速し、被告車と同速度で走行していると、追越し車線から白い車がスピンしながら石谷車の前に出てきたので、石谷車は急ブレーキをかけて白い車の手前で止まつたが、後続車両に押し出されて白い車に当たつた」と証言するところ、同証人の右証言は、原告ら及び被告、訴外山本と何ら利害関係が認められず、その供述態度、内容からも信用できるものであるが、右証言に、本件事故後の原告車の損傷箇所(右後部の凹損)、停止状態から推認される事実、即ち、進路に向かい右斜め方向に傾いていた原告車の右後部に直進中の被告車(被告車が直進中であつたことは争いがない。)が追突したことを併せ考慮すると、原告門の、直進走行中減速したところ、後続直進中の被告車が追突したとの前記供述部分は信用できず、証人山本の証言に信用性が認められることになる。

そうすると、追越し車線から、被告車を追い越すや否や前方に進入してきた原告車との追突は、被告車が前記のとおり一八トンのフルトレーラーで一〇トン車の後方に八トンの箱車を牽引しているもので急ブレーキをかけると牽引している箱車が振れて制御不能になることを考慮すると、追突は不可避というべきであるから、本件事故は原告門の一方的過失により惹起されたものと認められ、訴外山本には過失が認められないことになる。

本件事故は原告会社に勤務する原告門が原告会社の業務執行中に発生したものであるから(原告門本人)、原告会社は本件事故による被告の損害について賠償責任を負うことになる。

二  損害(各費目の括弧内は請求当事者主張額)

1  原告ら分

前記認定によれば、訴外山本は無過失であるから、被告は免責され、原告らの損害について賠償責任を負わないから、原告らの損害額については検討するまでもない。

2  被告分

(1) 修理費(七四万五二一五円) 七四万五二一五円

証拠(乙二、三、証人廣岡八重子)によれば、本件事故による被告車の損傷に対する修理費として七四万五二一五円を負担したことが認められる。

(2) 休車による損害金(二〇万円) 二〇万円

証拠(乙五の1ないし5、六、証人廣岡)によれば、本件事故による修理のため、少なくとも被告車は平成二年四月七日から同月一二日までの六日間業務に使用できなかつたこと、その間、四月七日、九日ないし一二日の計五日にわたり、運送会社に貨物の運送を委託し、三八万七九五〇円(内訳、運賃三二万一四四〇円、通行料六万六四五〇円)の支払を余儀なくされたことが認められる。右支払分のうち通行料は被告車を使用しても、当然負担するものであり、走行に必要なガソリン代(運送費の二割程度)も免れていること(証人廣岡)によると、本件事故による被告車の休車により少なくとも二〇万円の損害を被つたと認めるのが相当である。

(3) 弁護士費用(一五万円) 一〇万円

本件事故と相当因果関係のある弁護士費用相当の損害額は一〇万円と認めるのが相当である。

三  まとめ

1  本訴

前記のとおり原告らの被告に対する請求はいずれも理由がない。

2  反訴

被告の原告らに対する請求は、原告らに対し各自金一〇四万五二一五円及びこれに対する不法行為の日である平成二年四月七日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。

(裁判官 高野裕)

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